終わらざる夏 - 浅田 次郎

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この本を「面白い」と表現することが正しいのか分からないけど、素晴らしい本だと思います。

久しぶりに心に響いたと言うか、読んでいて結構応えました。

もちろん、これは小説です。
ノンフィクションではないので、事実だけが書いてあるわけではない事は承知の上で読んでいるわけですが、それでも考えさせられるものが多い内容に感じました。

当たり前の事なんですが、戦争は嫌だと感じる作品です。
ともすれば忘れがちな事ですけどね。

「終わらざる夏」はポツダム宣言受諾後に、北の孤島、占守島で始まった戦いを描いた作品のように紹介されることが多いですが、実際に占守島での戦いについて書かれているのは下巻の最後の方だけです。

上巻はどちらかと言えば突然赤紙が届き、占守島に召集される事になった 3人の補充兵やその家族を中心に、その周りで関わっていく人々などにフォーカスをあてながら進んで行きます。
下巻になると占守島の守りに着いていた軍隊や、占守島に攻めこむことになるソ連側の兵隊たちの話を含みながら進むという感じ。

誰が主人公かと言われるとよく分からないのですが、あるインタビューで浅田氏自身が、「この小説の主人公は戦争です」と答えているらしいのですが、確かに"戦い"の部分の記述は最後の部分に出てくるだけですが、戦争の日常を描いていくという意味で確かに戦争が主人公の作品なのかもしれません。

そして、先程も書きましたが、ここで書かれている事は「やっぱり戦争は嫌だ」という事なんですよね。
どうしようもなく戦争に巻き込まれていくという日常、本当に嫌だなぁっと感じると同時に、本当に怖いなぁっと感じました。

みんなが戦争なんて馬鹿馬鹿しいと思ってるけど、既に母国が戦争を始めている状況で、母国のため家族のため嫌だろうが戦地に向かう。
そんな人達も数年前までは普通に戦争とは関係なく暮らしていた訳ですよ。

やっぱり、こういう部分が私には衝撃的でしたし、考えさせられました。

本当の事は分からないけど、確かに日中戦争の頃って戦時下とは言え普通に生活していた人の方が多かったのかなぁっと。
それが、日米開戦から徐々に戦争が長期化するにいたって国民生活にもどっぷり戦争の影響が出てくる感じなのかなぁっと。

少し前に NHK でやってた「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」を見ていても感じましたけど、まさにボタンの掛け違いが積み重なっておかしな方向に向かっていった結果が戦争だったとしたらこれほど怖いことは無いと言うか、不幸なことは無いと思います。


っとまぁ、なんか真面目に書いてしまうと随分と重い内容に感じてしまうかもしれないですけど、話としては凄く読みやすい内容だと思います。

ネタバレになってしまうかも知れませんが、個人的にサーシャが譲と静代に出会う部分や、萬助と久子の件、サーシャの独白の部分なんかは小説ならではの幻想的な話でとても好きです。

もちろん、こう言う実際に合った戦争を描く時にファンタジー的なノリを出したり、事実から離れた表現をすることに抵抗を感じる人も多いと思いますが、少なくともだからこそ読み物として面白くなるわけだし、フィクションから入って事実を調べるというのでも良いと思います。

実際、私は占守島での戦いなんて知らなかったので、この作品で初めて知ったわけです。
でも、こういう話を知らないと色々な問題が理解出来ないと思うんですよね。

そういう意味でも、読んでおいて絶対に損はない作品だと思います。
ただ、最初にも書きましたが、単純に素晴らしい作品です。

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